独立独歩
野田夏彦著、Parade Books『独立独歩~自己探求家が語る、「独立個人」の生き方とは?!~』書影。これまでも当ブログでは長いタイトルの本を縷々取り上げてきたが、一行で収まらないほど長いのは大変ひさしぶりである。このタイトルを間違えずに打ち込めただけで、今の私は、今日の仕事は終わったぜ的な多幸感に満たされている(嘘)。
奥付に本書の発行は2022年10月、発行元が株式会社パレードという表記がある。同じ頁には小さく「装幀 藤山めぐみ」の名前も認められた。小B6判無線仮綴じ、単色刷り218頁カバー掛け。頁数はタイトルページから起算した通しノンブルで、本冊の束を製本した後に小口を三方裁ち放した軽装本である。
小B6判というのは横112×縦174㎜の小振りな判型で、手に馴染みビジネスバッグやデイパックにも収まりのよいサイズ。実際低比重の本文用紙を使った本書は非常に軽く持ち回りもしやすかった。その意味で本書は版型を生かした良い装幀計画の実例になるかもしれない。
見えているのはごく最近匿名で送られて来た新刊本で、当然完本である。とりま当ブログの本体である「廃墟・自動車図書館」宛の寄贈本として有難く新収しておいて、こうして簡単な紹介を文書投入する次第。
自己探求家を標榜する著者による、精神世界的な思考法への導き。もしくは啓発。タイトルページをめくると無題の巻頭言があり、続いて目次へと早速に導入が始まる。
本文は「はじめに」「序章 自分を深く知ること」「第一章 孤独がきみを強くする」「第二章 ほんものの幸せとは」「第三章 脱スピリチュアル!! 超現実主義者を目指せ」「終章 目覚めよ、日本人!!」と進み、実質的には五章立てで構成されている。加えて前後に数頁程度の補足的な断章が添えられている。
見出しを読んだだけでも「自分」「孤独」「幸せ」と精神世界系には特有のキーワードが並ぶので、嫌いな向きはこの時点でガシャンなのかもしれない。そのうえ「脱スピリチュアル」とダメ押しされたら、普通の人でも控えめに言って警戒心Max(笑)。逆に自分探しの旅に疲れ果てた流浪の民ならば、やっと安らげる本に出会えたと即買いするのかな。いずれにせよ、この目次頁が著者と読者の双方にとって最初のハードルになるとはいえそうだ。
本文はおおむね第二章までが、幼児体験から始まる著者の精神世界遍歴の振り返り。後半は長年の遍歴から感得した自己探求の極意を縷々開陳する構成となっている。文体は平易で、読者を前に諄々と説き聞かせるような語り口は穏やか、かつ池袋西口で脱法ドラッグを売(ばい)するアニキのようにフレンドリーである。しかし、幸せは自分の外にはないとか自分という存在はないと言い切る著者のスタンスはなかなかにハードで、一歩も退かない決意も見えている。
読みはじめるとすぐに宗教民俗学や教派神道に特有の術語がワラワラと出来し、くわえて著者の造語までもがなんのエクスキューズもなく飛び出し、心の準備もできぬ間に言葉の坩堝に叩き込まれる。これが第二のハードルか。しかし神佛にはまるで疎遠な世間無用のカバ男であるからして、ここは理解不能な数式が頻出する物理学の教本でも読むつもりで躊躇なくスキップ。委細構わずずんずん読み進んでゆく。
スピリチュアル系の啓発本など初めて読むが、根を詰めて塙新書を精読するワケでもないので言葉ひとつひとつの解釈抜きで、「静聴静聴!」とか「言語明瞭!ヨーソロ」とか心の中で好き勝手に著者を野次り倒しながらの読書となる。冒頭自分自身を見つめて確立してと「小さな話」で始まって、最後は世界の成り立ちと神々という「大きな話」へと怒涛のように駆け抜ける本書、それにつれて脳内野次もグイグイ盛り上がる。その内黙読の文章と「論旨変遷!」「コンテクストを提示せよ!!」などの脳内ツッコミとが喧々囂々響き合い、いや騒々しいこと夥しい。傍目には身動ぎもしない静かな書見でも、わが空虚なる頭蓋骨の洞には著者の言葉とこちらの野次とが轟々と渦巻くのであった。
そうしてバラバラ頁が繰られてゆき、二時間ほどで楽しく読了した。土台同じ国語で書かれているのだから難しいことなどないのである。
それで、ではお前の中に何が残ったかと野田氏に問われたら、申し訳ないがちょっと返す言葉もないのである。書かれていることは読めました。読めたけど、その内一割ぐらいの文章は覚えているけど、フィロソフィー的には限りなくゼロかな。世間無頼のカバ男には何も残っちゃおりませんて。
心の癒しを求めて彷徨う民なら再読三読、なんとか食らいつこうと頑張るのかもしれない。もしかしたらこの本と金を握りしめて野田氏の教えを乞いに参じる向きもあるかもしれないし、そうなってもらうのが本書出版の秘められた真意なのかもしれない。
気付かぬ内に読書を離れ金絡み精神絡みに闇落ちしてゆくこの辺の進退判断が第三の、そして一般的な精神世界系読書の本当に大変なハードルになるものだといっても過言ではない。さてこその正念場である。
でも、幸せは自分の外にはないと断言する本書に則して言うならば、リアルな野田夏彦氏に対する執着など無意味なのであろう。知らんけど。
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コメント
No title
2023-02-14 19:00 ぬぽGL URL 編集
ぬぽGLさん、こんばんは。
意外とイケちゃうかもしれませんよ(無責任)。
2023-02-14 21:23 カバ男(かばおとこ) URL 編集
No title
この本のことはよく分かりませんが、カバ男さんの語り口調が面白いです🎵
カバ男さんが楽しそうに(?)読んだ本なら読もうかなあという気にもなります。
しかし、幸せは自分の外にはないかあ・・・私には無理ですねえ💦
「だけど、涙が出ちゃう。女の子だもん」って、泣いている女性は、嘘でも慰められないと幸せにはなれないのですよ(笑)
2023-02-17 13:57 杏莉 URL 編集
杏莉さん、こんにちは。
この本の言わんとするのは、「周りをキョロキョロ見回す前に、まず自分の内面をしっかりと見詰めましょう」ということみたいですよ。
なんつうか、白馬の王子様は来ないと突き放すようで恐縮なんですが。
優しい文章なのに言ってることは厳しいという、一種のツンデレ効果を狙ってんのかな。ははは
2023-02-17 15:04 カバ男(かばおとこ) URL 編集