バイクメ~~ン
望月峯太郎(もちづき みねたろう)『バイクメ~ン』四巻本コミック。
いやはや、「カバ男のブログ」で取り上げる初の多巻本がコミックとは恐れ入りますが、モノが『バイクメ~ン』なら本望です。つか、光栄です。
講談社<ヤンマガKCスペシャル>というコミック叢書の第194、214、242、248巻で、1990年3月から91年1月にかけての刊行。判型はB6判、各巻単色刷り240頁前後、青年コミックによくある標準的な構成です。叢書タイトルからすると、成人コミック雑誌の『ヤングマガジン』に連載された作品を取り纏めているみたいですね、ヤンマガKCスペシャルって。
『頭文字D』とか『湾岸ミッドナイト』なんかもココなのかな。

家族の中心だった母が世を去り、残された本木家の三人が一人ひとり、自分にとっての家族像とか家庭像を悩みながらも模索してゆく、というホームドラマの王道的な筋書きがベースになっています。
そこにロックの神(=悪魔)との契約でバイク人間となったモンローライド・ボニーとガスマン・ドトキンという二人(二台)の時空を超越した果てしない戦いという全く異質なアクションストーリーが絡み、でも最後の最後まで親子とは、家族の愛とは、というテーマがとことん突き詰められてゆきます。
終盤のボーリング場からクライマックスにかけてのダイアローグは圧巻ですね。
今回、書架から抜き出して二十年ぶりぐらいで通読しましたが、読後感は良かったです。昔、渋谷は百軒店のジャズ喫茶『音楽館』に入り浸ってヤンマガの初出を読み耽っていた頃のインパクトは、全く薄れていませんでしたね。
この『バイクメ~ン』は連載が終わってからも、コミック本が書店に並ぶのを手ぐすね引いて待ち構えていたほどで、揃えてからも何度も読み返しました。なので自分でも驚くほど多くの場面を覚えていたんです。好きだったんですね~。
作者の望月氏に関してはよく知りませんが、1950~60年代の世相風俗に非常な造詣をお持ちの方なんじゃないでしょうか。また同じ時代のTVドラマや映画のコンテやスクリプト、雑誌などのヴィジュアル情報も、誰も気が付かないような部分を作品に大量に援用していますね。優秀な資料蒐集チームを雇っていたとしても、ちょっと資料の量だけで押しても描けないような、望月氏個人の蘊蓄の領域がうかがえるような描写の連続でした。
つまりこの『バイクメ~ン』、50年代当時の若者風俗を反映した重いB級ドラマツルギー的雰囲気と、ロックンロールを下敷きにしたSFオカルトっぽい70年代ポップカルチャーのサイケな色彩をマーブル模様のように溶き交ぜた濃厚な世界の中で、現代的ホームドラマが進んでゆく、ト。そんな複雑で韜晦な構成を目指したのかな。そう思って読み進めば、些細な場面転換ひとつをとっても、「実はこのシーン・・・」的なヒソミというかマネビが隠されている感じもあって、なかなか気が抜けないです。
キリスト教に於ける行路者の守護聖人・セントクリストファー(聖クリストフォルス)なんて名前、平気で持ち出してきますしね。
よく人気のあるコミックは連載が終わっても単行本、スペシャルバージョン、コンプリートパックなんかいって何度も豪華な本に作られますよね。でもこの『バイクメ~ン』は全然そんなの出た気配もないです。
せめて原画サイズの一冊本にでも仕立てて、記念出版みたいな形で再刊してくれればいいのにと、改めて思いました。あの『こぐまRENSA』ですら、特別版が出てたんですからね。
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