黑白小厨房 望郷冷茶篇
「スゴイなプーアル茶!!!」
と思わず目を剥いてトイレで仁王立ち(笑)。
顔見知りの華人女性が時々「これは(製茶してから)二十年以上経っている」とか「これは新しい」「これは沢山手に入らない」とか一言添えながら持ってくる、本物の大陸プーアル茶。
この婦人が一体どんな人生を歩んできたのか、私は知らない。だが、茶封筒に入った熟茶の玉を手渡してくれる時、いつも微かにはにかんだような照れたような、華やかさの消え残りのような表情を見せてくれる。それで私も心の強張りを寛がせることができるのである。多謝你。
遠い遠い昔、いつか大陸の何処かで、彼女はきっと花のように優しく艶やかに微笑みながら暮らしていたのだろう。だが今、彼女にとって彼の地に帰れる場所はない。氏族に所縁の土地はあるけれど、赤い陰風が吹き荒れて人も風景もすべて奪われてしまったからだ。幸せだった思い出の縁を悉皆蹂躙され尽くし、彼女は自分の世界を失ってしまった。
なので、この婦人は恐らくこのままずっと日本に住み続け、やがて土に還ってゆくに違いない。
いつかその時が来るまで、私は彼女のプーアル茶を大切に飲み繋げてゆこうと心に決めている。なにしろこのお茶ったら、心の強張りをほぐすどころか腹の、胃腸の強張りまで・・・。
スゴイな普洱茶!!!